3
 

「あ、……お、」
「ん?」



ぎゅう、としがみつく力が強くなった。



「お、か……おかえ、り、」
「っ……」
「おかえり、な、さ……っ」



廊下での会話、聞こえていたんだろう。
聞いて、覚えて。
頭を撫でて、返事をする。



「ただいま」
「っ……ゆじ、ゆう、じっ」



たったそれだけなのに、どうして、泣きたくなるんだろう。



「かえって、きた」
「?」
「また、かえって、くる?」



知らぬ間にいなくなって。
違う人に売られて行って。
そんな世界を見てきたから。

毎日毎日、そんな願いを込めながら。
俺の帰りを待っていてくれたんだろうか。



「帰ってくるよ。明日も、明後日も、その次も」
「っ……おか、えり、」
「うん、また言ってくれる?」



こくこく、と小さく。
けれど何度も、頷いた。



「……泣かないで」



ぽろ、と頬に伝った涙を、そっと拭ってやった。



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