5
執拗なまでの、窓へ手を伸ばした跡。
叶わず壁を削った手は、血が滲んでいる。
「……ちなつ、」
「ごしょう、だ、から……っ」
「……っ」
それでも、
「……だめ」
「っ……あ、ぁっ」
「千夏はここで、」
「聞き、たく、ないっ……」
耳を塞いで、拒絶する。
瞑った目は、固く閉ざされていた。
「な、で……?」
「え?」
「ゆる、されなっ……しぬ、ことも」
「っ………」
「はやく、ころしてっ……」
俺に千夏は、救えないのだろうか。
耳を塞いでいる手を、そっと取った。
そのまま手首に、指を添える。
「………1、2、3」
「っ……」
「6、7、8」
拒否するように腕を引かれるけれど、俺は手を離さない。
「12、13、14、」
「やぁっ……あ、っ」
「16、17」
生きようと、してるから。
「いきて、」
「あぅ、っあ」
「生きてほしい、俺は」
「っ……」
たとえ、死にたがっても。
「大切、だから」
縋るように裾を握られた、この小さな手を、
「独りじゃ、ないから」
離さないように、
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