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電話を終えて、病室に入って見えたのは、
「っ………!」
空になったベッド。
床にへたりこむ、千夏。
窓に続く、赤の筋。
「いやっ、……やぁっ」
「!」
左腕に食い込む、右手の爪。
鮮血を見た瞬間、身体が勝手に動いていた。
力の弱まることのない右手をつかみ、そのまま抱き締めた。
「あ゛ああぁぁ――っ!」
「千夏、っ」
「ご、めっ、なさっ……あ、っ」
ガタガタ震えている身体は、ひどく冷たい。
温めるように必死に抱き締めて、そっと耳元に口を近付けた。
「聞いて、千夏、っ」
「あ゛、ぁっ……」
「俺だよ、裕二。怖くないよ、」
「はぁっ、あ゛っ」
「深呼吸して、ゆっくり」
背中を擦ると、わずかに千夏の呼吸が落ち着いてきた。
「は、はふっ、あ゛」
「そう、いいこだね」
「はぁ、う……っ」
何かの意思を示すかのように、千夏が俺の身体を押し返してきた。
それはとても、微力だったけれど。
「あ、っ」
「うん?」
「も、いっ……から、っ」
それは微かな、声
「……しな、せて」
ぎり、と奥歯を噛み締めた。
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