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(よく寝てるな……)
ベッドの傍ら、少し離れた椅子に座ってその寝顔を見つめた。
俺が「ご主人様」となってから、少なからず状況はよくなっていた。
最初に比べてあからさまに怯えることはなかったけれど、まだ近付くだけでびくついているのがわかる。
口だけで何もしないと言っても、そう素直に信じられるわけはない。
ただこうして、少しずつ近付くことができているだけで十分だと思う。
(……寝てる時もだな)
眉間に皺。
せめて寝ている時だけでも、休まってほしい。
「……う、……」
「………」
時折聞こえる声は、苦しそうで。
体の傷は確実に治ってきているのに、心の傷は癒えていない。
歩けない、足さえも。
『足が不自由なわけじゃないみたいだ。ただ、長く拘束されていたのか足の筋力が落ちていて、歩けないだけだ』
しばらくリハビリが必要だと、父親が話していた。
リハビリをすれば、歩けるようになる。
そう思うと、少しだけ希望が持てたような気がした。
「………あ」
物思いに耽っていると、携帯に着信が入った。
ポケットの中で震える携帯を取って、一巡。
屋上に行くか、と病室を出た。
「………すぐ戻るね」
眠っている千夏に、ぽつりと声をかけた。
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