5
 

「っ……じ、……ま」
「ん?なぁに?」



初めて千夏が、何かを伝えようとした。
小さな声を聞き逃さないような、耳を傾けた。



「ごしゅ……じ、さま……」
「っ……」



―――ご主人様。



「っ、俺、は……ご主人様、じゃないよ……」
「う、ぇっ……?」



千夏が戸惑って、悲しそうにぽろぽろと泣きはじめた。
……どうして、泣くんだろう。



「泣かないで、」
「や、っ……」
「ご主人様なんていないんだよ、」
「ご……じ、さまっ……」
「ちなっ」



わからない。
自由になれたのに。
ご主人様なんて、もう人に買われるような、存在じゃないのに。



「おね、がっ……します……ごしゅじん、さまに……っ」
「え?」
「ぼくの、ごしゅっ……さま、にっ」



―――どうして、そんな事言うんだろう。



「いや、っ……ほかの、ひと、……っ」
「……!」
「おねがい、します……っ」



他のご主人様とやらに渡れば、また怖いことが起こると思ってるのか。
誰かに仕えなくても生きていけることは、今の千夏にはわからないのかもしれない。

だったら、俺は、



「……いいよ」



俺が、居場所を作る。



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