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千夏が目を覚ました。
それは喜ぶべきことだったけれど。
目に映るのは、絶望だった。
「………はぁ」
病室の前。
昨日の怯え様を見て、開けられずにいた。
また、避けられるかもしれない。
怯えて暴れるかもしれない。
けれど、その恐怖を、理解してやりたい。
拭ってあげたいと、思うから。
(………よし)
あいにく、今日は休日。
時間は、たっぷりある。
ドアをゆっくり開けた。
「………おは、よ……」
「っ……!」
目を覚ましていたのだろう、上半身を起こしていた千夏がびくりと身体を震わせた。
点滴をつけたまま、じり、とベッドの端に寄る。
大きな目が、戸惑っていた。
「大丈夫、これ以上、近づかないからね」
「ひ、っあ……っ」
「わっ!」
ドアの所で立ち止まると、さらに端に寄ろうとした千夏の姿が消えた。
……ベッドの下に落ちた。
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