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多分、12歳くらいのとき、仕事で失敗したらしい父親はひどく機嫌が悪かった。
いつもよりも手酷く身体を重ねられ、意識も途切れ途切れだったとき、知らない人が数人、家に上がりこんできた。
警察だった。
日頃から怒声や物音を不審に思っていた隣人が、呼んだらしかった。
それから僕の生活はぐっと変わった。
警察に保護され、母親の従弟だという人に預けられた。
――それが、満月先生だった。
満月先生も僕が生まれていた事は知らなかったらしいけど、自分が勤める中高一貫の中等部に入れてくれた。
学校長も、見知らぬ今は亡き祖父の兄弟らしく、あっさりと僕を受け入れてくれた。
父親がどうなったのかは、わからない。
ただ、高校生になった今でも、劇的に変わった生活に慣れる事は出来ない。
狭い世界だった12年間と、広い世界に住む4年間では、順応するにはあまりに時間が短すぎた。
満月先生や、たまに会う学校長以外の人とは、なかなか話す事が出来ない。
人に触れる事も、触れられる事も苦手だ。
薬がないと昔の事を思い出してパニックになってしまうし、無意識に自分を傷付けたりしてしまう。
父親の笑った顔と声は―――今も夢に現れて、あの世界から逃げ出した僕を、捕らえて離さない。
そのたびに僕は、
自分が生きる理由や
その価値とかいうものを
見失ってしまう。
墜ちた僕をいつも引き上げてくれるのが、満月先生だった。
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