6
 

吐き気が込み上げて立ち上がるが、ふらりと身体が倒れた。
気が付くと満月先生が横抱きにしていて、洗面台まで連れていってくれた。

まともな食事を取っていない今、胃液だけを吐き出した。
背中を優しい大きな手がさすってくれていた。



――可哀相に。



男の声が、僕の身体を支配する。



「……奈津」



優しい声が、遮る。



「せ、んせ、」
「ゆっくり休みなさい。ずっと学校にも来ていたし、疲れてるんですよ」



そう言って、ベッドに運ぶ。
寝かしつけるように、そっと布団をかけて、額を撫でられた。


「……や、」
「え?」
「声、が、」



額を撫でる手がぴたりととまり、頬に移った。
擦るように涙を拭かれ、そこでようやく自分が泣いていることに気付いた。



「や、こわっ……声、がっ」
「奈津、落ち着いて」
「も、やっ……もう、やだ、こわいの、やだ……っ」



頭の中、ぐちゃぐちゃで。

ただ恐怖だけが、僕の心を支配していた。



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