5
「えと、さ。奈津」
「………」
「暇な時とか、遊びおいでよ」
こちらを伺うように、高梨が言った。
名前で呼ばれはじめたのはいつの日からか。しかし好んでいる名で呼ばれるのは嫌いじゃなかった。
大切な人が、残した名前。
もうこの世にはいない
母親が名付けた、この名前。
「うっ……!」
「奈津?」
母親を思い出すと同時に、脳裏を掠める男の姿。
気付いた時にはもう遅かった。一気に押し寄せる嫌悪感に口元を抑えた。
流れ込むのは、男の声。
――静かに、するんだ。
―――大人しくしてたら
――――乱暴はしないから。
「やっ……」
「奈津?せんせ、奈津が」
誰か。
(誰か、)
(もう終わりにして)
――終わらないよ。
―――お前は逃げられない。
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