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僕が見知らぬ男に醜態を晒してから10日。
その男――高梨航は毎日のように保健室にくるようになった。



初めこそ訝しく、恐怖さえ覚えていたけれど、むやみに干渉しない高梨の性格が功を成してか、あまり気にしなくなった。
ふらりと現れ、何も話さずに帰る日も少なくはなかった。
いつも手を伸ばしても届かない距離に座り、目が合えば優しく笑うだけ。
満月先生を交えて談笑する以外には、僕に気を使ってか、むやみに話し掛けてはこなかった。



加えて初対面で醜態を晒してしまった事から、あまり気を使う事もなかった。
言い触らしたければ、言い触らせばいいと思う。
そこで失うものも、僕は持っていなかった。



こうして僕が、満月先生を除いて他人と長らく同じ時間を過ごすのは、初めてに近かった。

高梨の存在を許してしまったのは、彼の性格だけではなく―――彼の笑った顔が、満月先生にひどく似ていたから。



失笑でも苦笑でも、ほくそ笑んでいるわけでも、貶しているわけでもなく。

ふわり、と。

僕には到底真似出来ないような、優しい、笑い方。



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