6
 

言わなきゃ伝わらないことって、たくさんあるよなあとぼんやり思った。
桜木はきっと、自分の本当の気持ちは言わない。
だったら、



「俺は、居て欲しいんだけど」
「……!」



桜木がぴたりと暴れるのをやめて、代わりにシャツをぎゅうっと握り締めてきた。
……泣いて……?



「早くっ……俺のこと、裏切ればいいっ……」
「は?」
「俺のこと、傷付けてっ……優しくなんか、っ」
「……何言ってんの」



裏切られることばかり覚えてきた。
優しさの裏にある汚さに気付いてきた。
傷付いて、生きてきたから。
素直に優しさみたいなのを、受け取れない。

なんて、歪んだ、



「ここに居ろよ」
「……俺は、何もできないよ」
「何もしなくていいよ」
「……いつか、いらなくなる」
「ならない」



震える身体は、あまりに細くて。
その小さな身体を、柄にもなく俺は、守ってやりたいなんて思って。

それが好きだからとか、そういう感情はよくわからない。
ただ傍にいてやりたいと、思ってしまったから。



「ここに居てくれる?」



返事はなんとなく、わかってた。



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