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「俺っ……明日の朝、出て行く……ね……?」



震える声で桜木が突然、そんなことを言ってきて驚いた。
何だよ急に、と言い掛けて、最初の頃を思い出す。

偶然、拾って。
足が治るまではって。
そういう話だったわけで。



「……そ」



俺が引き止める義理もないし(っていうか、こっちは世話焼いただけだ)、桜木の言葉に意義を申し立てる理由もない。
けれど桜木は、俺の承諾の言葉に―――辛そうな顔をした。



「……え」
「じゃっ……最後の夜ってわけ、だ。……今まで、アリガトウ」



桜木は目を合わせない。
何かが崩れ落ちるような気がした。

触れることは愚か、近づくことさえできなかったあの時。
今の桜木は、あの時と同じに見えた。

信頼されている、とか大それたことは思っていない。
けれど少なからず、心を許してもらえているのかなとは、思えていたのに。
また、遠くなった気がした。



「……お前」
「俺、先に寝るわ。おやすみっ」



夜とは言え、日付が変わるまではまだ時間がある。
けれど桜木は、自分の身体を守るように、ベッドに潜り込んでしまった。



「ガキにしちゃ寝るの早すぎだろ」
「……るさい」



明日の朝、桜木はいなくなる。
その事実だけが、残っていた。



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