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side.綾
期限付きの出会いだってことは、最初から知ってる。
「もう完治って言ってもいいかな。癖になるから、また捻らないように気をつけてね」
朝倉という、都築の知人の医者がにこりと笑った。
俺はおずおずと足を引っ込めながら、ありがとう、とぽつりと呟いた。
「ありがとな、朝倉」
「お礼は口だけ?」
「稼いでるやつが学生にせがむな」
都築が朝倉の頭を叩きながら、リビングに行ってしまう。
寝室に一人になる。
俺は思わず布団を被って身体を隠した。
知っていた。
俺がここにいるのは、怪我した足を治すため。
歩けるようになるまでの、期限付きだってこと。
段々と治っていく足に、焦りを感じたのも事実だった。
最初こそは、さっさと出ていきたいと思っていた。
けど、今は、違う。
俺は、ここに――――。
「桜木?」
朝倉を送ったのか、都築が戻ってきた。
「寝てんの?」
「……寝てない」
のそのそと布団から這い出ると、都築がベッドに座っていて。
至って普通な様子に、涙がでそうになった。
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