5
「……わ、びびった」
外はすでに茜色に染まりはじめていた。
苦行のような大学の講義を終えて、食料を調達して家に帰ってきた。
ドアをあけると桜木が蹲って壁に身体を預けていて、思わぬ姿に驚いた。
「寝てんのか?」
警戒させないように指で突くと、腕の中に埋めていた顔が突然あがった。
「おま……うわ、っ」
「都築、」
その目には、涙が浮かんでいて。
視界にそれを捕えた瞬間に首に腕を回され、抱き付かれた。
中腰だった姿勢には無理があり、俺は崩れかかるように桜木の両側に手をついた。
がさりと袋が落ちた。
「どしたの」
桜木から触れられるのは初めてに等しく。
抱き付かれるという状況と、桜木の震える身体と涙が、普通じゃないと知らせている。
「怖い、夢、見たっ……」
「……ガキか」
荷物は置いて、未だ腕を離さない桜木をそのまま抱き上げた。
リビングにあがると朝と変わらない様子で。
「お前朝から何も食ってねーの」
返事は、強くなる腕の力。
仕方ないやつだなと、ソファに下ろしてやろうとする―――が、腕が離れない。
無理矢理離すのも気が引けて、俺がソファに座って膝の上に乗せた。
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