3
side.綾
俺には、親がいない。
物心がついた頃には施設にいた。
あるのはただ、「桜木綾」という名前だけだった。
施設での生活は、然程不自由なものではなかった。
優しい人たちに囲まれて、それなりに楽しく生きていた。
けれどそれは、中学を卒業するまでの話だ。
高校に入ったあたりから、元々女顔だった俺にちょっかいを出してくるやつが現れた。
それは高校でも―――施設でも、同じだった。
同じ施設に住んでたやつから、毎夜毎夜、痛みだけを教えられた。
逃げ出すことはできなかった。
そこしか俺の居場所はなかったから。
居場所を取り上げられる気がして、誰にも言えなかった。
18になって、施設を出ることになって。
やっと解放されたと思った。
新しい生活への期待と不安を持って、新しい街へ出た。
そして、あの夜が訪れた。
どこまで行っても、変わらないんだと思った。
ただ呆然と、その事実を噛み締めるしかなかった。
そんなとき、都築に会った。
今まで出会ってきたやつとは違う、都築。
今までとは違う、穏やかな場所。
それはまるで、平穏に暮らしていたあの頃と似ていて。
いつかまた終わりが来るのだろうかと、怯えるしかなくて。
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