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「骨折まではいってない。ただひどく挫いたね。しばらく熱持ちそうだし、長くかかるかも」
朝倉がそう言って、診察を終えた。
ぱっと、桜木が足を引っ込めた。
「悪い、忙しいのに」
「今日は休日だしいいよ」
玄関まで送っていると、声を潜められた。
「……何か訳ありな感じだけど」
「……まーな」
「まさかと思うけど……身体中の傷、お前じゃないよな?」
「んな趣味ねえっつの」
さすがは医者の卵、さり気なく露出した傷や痣をチェックしたのだろう。
「何があったかわかんないけど、ああいうのは後から大変だから。パニック起こしたり、暴れたり」
「………」
「また困ったことがあったら、言って」
「……さんきゅ」
ばたんと閉まったドアを見て、その場に座り込んだ。
「何やってんだ、俺……」
面倒なことは嫌いだ。
あの時、救急車を呼んでいれば。
あの時、あっさりと外に置いてくれば。
面倒なことはなかった。
けど、縋るような目が。
弱々しい拒絶の腕が。
牽制する強がった態度が。
そうさせてはくれなかった。
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