8
side.徹平
多分、若葉は気付いてない。
自分の容姿がどんなものか。
「お、重くない、ですか」
「重たい」
「う……」
「でも、降ろしていーのか」
言うと、きゅっと背中を掴まれた。
それほどまでに、こいつに恐怖が刻み込まれてるってことか。
「馬鹿、嘘だよ。人前に出んの嫌なんだろ」
「っ……」
こくりと頷く。
素直で、華奢で、魅力的な容姿があって。
それでも、それだからこそ、普通に生きていけなかった。
そんな若葉が少しだけ可哀想になって―――愛しくなった。
「あそこ、好きか」
「……?」
「さっきの店」
「……お、おいしかった、」
毛布の中のくぐもった声が、微かに柔らかくなった。
「また、行こう」
「………」
「一緒にな」
「……!」
若葉は何度も、こくこくと、頷いた。
健気な返事に、どうにかこいつを笑わせてあげたいなと、思った。
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