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稚早は、絶対俺に触れてこなかった。

言いはするものの、俺が断ると、あっさり引いた。
必ず一定の距離を置いて、歩いてくれた。

最初は鬱陶しかった稚早の存在が、少しずつ、大きくなっていった。

安心、するようになった。



「あゆ、帰ろー」



いつもの帰り道。
少し前を、稚早が歩く。

ほぼ毎日見てる、大きな背中。
なに考えてるかわかんない笑顔は、すぐに思い浮かべられる。
……救われた、なんて、認めたくなかった。



「……あゆ?」



一人は、怖かった。
それ以上に、他人が怖かった。

稚早は、側にいてくれた。
稚早は、わかってくれた。

恐る恐る、稚早の制服の裾を掴んだ。
頭上で、稚早が少しだけ笑うのがわかった。



「無理、しなくていいよ」
「っ、無理、なんかっ……」
「手、震えてる」



稚早が優しく言うから、俺はゆっくりと、手を離した。



「俺はいつだって待ちますよ、あゆが俺の事好きになってくれるまで!」
「……馬鹿じゃねーの……」
「ひっど、俺は本気だよー?」



いつもの、笑顔。
なんで、そんな顔向けてくれるんだろう。

心地いいと思った。
離れて欲しくないと思った。

同時に、知られたくないとも、思った。



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