3
稚早は、絶対俺に触れてこなかった。
言いはするものの、俺が断ると、あっさり引いた。
必ず一定の距離を置いて、歩いてくれた。
最初は鬱陶しかった稚早の存在が、少しずつ、大きくなっていった。
安心、するようになった。
「あゆ、帰ろー」
いつもの帰り道。
少し前を、稚早が歩く。
ほぼ毎日見てる、大きな背中。
なに考えてるかわかんない笑顔は、すぐに思い浮かべられる。
……救われた、なんて、認めたくなかった。
「……あゆ?」
一人は、怖かった。
それ以上に、他人が怖かった。
稚早は、側にいてくれた。
稚早は、わかってくれた。
恐る恐る、稚早の制服の裾を掴んだ。
頭上で、稚早が少しだけ笑うのがわかった。
「無理、しなくていいよ」
「っ、無理、なんかっ……」
「手、震えてる」
稚早が優しく言うから、俺はゆっくりと、手を離した。
「俺はいつだって待ちますよ、あゆが俺の事好きになってくれるまで!」
「……馬鹿じゃねーの……」
「ひっど、俺は本気だよー?」
いつもの、笑顔。
なんで、そんな顔向けてくれるんだろう。
心地いいと思った。
離れて欲しくないと思った。
同時に、知られたくないとも、思った。
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