5
side.稚早
「あゆに怖いことするやつは、もういない」
「ち、はや、」
「うん、ここにいるのは俺だけ」
「っ、稚早、ち、稚早ぁ」
「!」
ぎゅ、と。
俺のシャツに歩がしがみついてきた。
「あゆ、」
「ちはや、」
「抱き締めてもいい?」
俺がするより早く、震える腕が背中に回ってきた。
怯えさせないように、ゆっくりと小さな身体を抱き締めた。
あゆの匂い。
誰にも寄りかかろうとしない強いこが、俺にだけは弱さを見せてくれる。
愛しいこ。
「ち、稚早」
「うん?」
「ご、ごめ、こわい……」
歩が手を離してきたので、俺も大人しく手を離す。
「な、で……?」
「え?」
「なんで、泣いてるの……?」
あゆに言われて気付いた。
俺、泣いてた。
「ごめ、おれ、迷惑……?」
「わ、ちがう、あゆ、違うよ」
「っじゃあ、なにっ……」
またじわりと涙が浮かび始めた歩を宥めながら、手をそっと握る。
「しあわせだなぁって、思ったの」
「っ」
「ずっとずーっと、あゆの傍にいたいなぁって」
「……ばか」
触れなくたって、愛しい。
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