5
 

男は、僕の服をよく脱がす。
脱がしては、クリーム状の何かを塗っていく。

煙草の跡。
アイロンの跡。
切り傷に刺し傷に打撲傷。

辿るように、男の指が滑っていく。



「はい、おしまい」



男はにこりと笑って、服を着せる。

たったそれだけだった。
それ以上何もしなかった。
ただ、優しく触れるだけ。

この人間は、僕を、傷付けない。



男が部屋を出ていき、僕は布団から出る。
ぺたりと床に寝そべる。

ひんやりとする。
ふかふかの布団は、いらない。



「………瑠依」



男が部屋に入ってきた。
背中を向けたままでいると、ふわ、とタオルケットをかけられた。
後ろに、男の気配がした。



「そんなに、ベッドは嫌い?」



きらいって、なに?

ベッドは、いらない。
いらないは、きらい?



「……ぃ……」



声が掠れる。

後ろから包み込むように、男の腕が伸びてきた。



「うん、嫌だったね。ごめんね」



ここで一緒に眠ろうか、と頭を撫でられる。

男の表情は見えない。
ふ、と窓が見えた。

青い空は、遠く。



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