4
れんの声だけが、聞こえた。
押し潰されそうな、記憶の波。
耳をふさぎたくて、でも、ふさいでも聞こえてくる声。
聞きたくなくて、怖くて。
れんの声だけが、やさしかった。
(……れん、)
れんは、僕を、傷付けない。
僕は、れんを、傷付けた。
噛んでしまった腕の傷を見つけて、はっとする。
僕はここに、いられなくなるかもしれない。
れんが、いらない、ってするかもしれない。
でもどうしていいかわからずに、れんの手を撫でたまま、パニックになって泣くことしかできなかった。
「瑠依?どうしたの?」
れんは、やさしい。
いつだって僕のことばかり。
赤が滲むこの痛みだって、忘れてしまったみたいに。
「る、」
れんの声が途切れた。
僕は構わず、傷を舐めた。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
声にはならないけれど、伝わるように。
「……ありがとう」
そっと、頭を撫でられた。
それでも不安で、れんの顔をおずおずと見る。
「っ、」
れんは、笑っていた。
「俺はずっと、瑠依のことが好きだからね」
だから、不安そうな顔しないで。
そう言うから、僕はまた、泣いてしまった。
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