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れんの声だけが、聞こえた。

押し潰されそうな、記憶の波。
耳をふさぎたくて、でも、ふさいでも聞こえてくる声。

聞きたくなくて、怖くて。
れんの声だけが、やさしかった。



(……れん、)



れんは、僕を、傷付けない。

僕は、れんを、傷付けた。
噛んでしまった腕の傷を見つけて、はっとする。
僕はここに、いられなくなるかもしれない。
れんが、いらない、ってするかもしれない。

でもどうしていいかわからずに、れんの手を撫でたまま、パニックになって泣くことしかできなかった。



「瑠依?どうしたの?」



れんは、やさしい。
いつだって僕のことばかり。
赤が滲むこの痛みだって、忘れてしまったみたいに。



「る、」



れんの声が途切れた。
僕は構わず、傷を舐めた。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
声にはならないけれど、伝わるように。



「……ありがとう」



そっと、頭を撫でられた。
それでも不安で、れんの顔をおずおずと見る。



「っ、」



れんは、笑っていた。



「俺はずっと、瑠依のことが好きだからね」



だから、不安そうな顔しないで。

そう言うから、僕はまた、泣いてしまった。



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