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「一口だけ、ね?」
れん、はスプーンを僕に差し出す。
頭を引いてそれから逃げると、スプーンも前についてくる。
「ごはん食べないと、元気にならないよ?」
元気、いらない。
ごはんは、いらない。
苦しいから。
食べたら、延びるから。
いきる、時間が。
「瑠依、」
いや、ってしてるのに。
れんは聞いてくれない。
いらない、きらい。
「っ!」
スプーンを持つ、れんの手を噛んだ。
からん、と床に落ちる音がする。
きらい。
いや。
くるしいのは、いや。
いきるのは、いや。
「……ごめんね」
れんは、僕の頭を撫でた。
しってる。
謝っても、ごはんはくる。
「苦しいね、ごはんは、嫌だね。ごめんね」
口のなかが、血のあじがする。
僕のじゃない、血。
「俺も、痛いの我慢するから……瑠依も、苦しいの、我慢しよう?」
れんは、にっこり笑った。
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