9
「瑠依……?」
気付いたら、男の服の裾を握りしめていた。
いかないで、いかないで、と、何度も願う。
いらない、のに。
嘘つきは、いらない。
きらい。
でも、いや。
どこにも、いかないで。
「ここにいるよ、大丈夫」
男は、また笑って、僕の頬を両手で包んだ。
「……泣かないで」
僕を、いると、言ってくれた。
「ここにいるからね」
そっと抱き締められる。
そばにいると、言ってくれた。
しんじても、いい?
嘘つきは、嫌いだけれど。
嘘つきじゃ、ないって。
「……、」
「うん?なぁに?」
声が、うまく出せない。
視界が霞むのはどうしてだろう。
それでも、伝えたい。
「……れ、…ん」
「……!」
あなたの、名前。
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