8
「服、買ってきたよ」
男はそう言った。
床に座っていた僕は抱き上げられて、ベッドに座らされた。
「着替えよっか」
僕の服に、手がかかる。
男はにこりと笑って僕の頭を撫でて、ぷち、とボタンをとった。
いらない。
嘘つきは、いらない。
きらい。
「サイズ合うかなぁ」
する、と大きな服を脱がされた。
次に、新しい服をあてられる。
手を取られて、袖を通されて、
(……いや)
それは、とても、無機質だった。
「瑠依?」
真っ白な、新しいシャツは、僕にぴったりで。
皺一つなくて、でも、冷たくって、違った。
いや、だった。
匂いが、しなかった。
「!」
まだボタンを閉められていないシャツを脱いだ。
隣に置かれた、今まで着ていたシャツを抱き締める。
(……い、や)
あったかいのが、すき。
匂いがするのが、すき。
新しいのは、いらない。
「……その服の方がすき?」
すきは、いる。
ただ、離したくなくて、シャツを強く抱き締めた。
「……うん、いいよ。瑠依が好きなの着ようね」
男は、ふわ、と抱き締めてきた。
あの日から男は、そっとしか僕に触れなくなった。
今もそう、軽く包まれて、離れてしまう。
シャツと、同じ匂い。
いかないで、
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