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side.航



入り口で声がした。
同時にかしゃん、と何かが床に落ちる音。

嫌な予感がした。
奈津と唇を離し、ゆっくりと背後を振り向くと、顔を赤くした春川竜也が立ち尽くしていた。



「ご、ごごごごめんっ……!」
「春川!」



踵を返した春川はそのまま足をもつれさせて、綺麗にスライディングした。



「ちょ、おい!」
「痛ってえ……」
「!」



思わず春川に駆け寄ろうとして中腰になったところで、くいっと裾を引かれた。
後ろで奈津が、脅えた目をしてこちらを見ていた。
裾を引く手が、微かに震えていた。



「大丈夫、大丈夫だから。……春川、早く出て行け馬鹿」



頭を軽く撫でてやり、倒れたまま悶絶する春川を睨んだ。



「ご、ごめんて……!」



わたわたと、春川が部屋から出ていった。
……ゲーム忘れてる。



「ご、めっ……びっくり、して……」
「ん、わかってる。ごめんな。も大丈夫だから」
「こう、っ……こお、」



ふるふると震えながら泣きじゃくる奈津を抱きしめながら、やっぱりまだ遠いなと思い知らされた。

長い時間をかけて、俺は奈津の隣にいることができるようになった。
でも、俺だけなんだ。

優越感と同時に、どうにかしてやりたいという切望。
奈津が嫌がることはしたくないけれど、奈津が怖がることがないように。



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