5
side.航
ただの夢だ。
でも情けないことに、腕が震える。
奈津は気付いているだろうに、何も言わずに腕の中に収まってくれた。
「航、」
「……名前」
「え?」
「名前、呼んで、もっと」
本当は、怖かった。
奈津が入院してしまってから。
あっという間にいなくなってしまうかと思った。
手の届かない遠くにいってしまうかと思った。
でも、奈津を前にそんなことは言えなくて。
一番不安で、一番戦っていたのは、奈津だったから。
それでも、俺は怖かった。
退院した今だって、怖かった。
「こう、」
「ん」
「こう、こう」
優しい声で、呼んでくれる。
奈津の肩に顔を埋めると、奈津は俺の頭を包んで、髪を撫でた。
「ずっと、すきだよ」
夢の中と、同じ言葉。
抱き締める腕を、ぎゅっと強くした。
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