3
side.航
「っ……」
そこには、静寂しかなかった。
外の騒音や、風の音も。
電子音も点滴が落ちる音も。
奈津の呼吸さえ、聞こえなかった。
「な、つ……?」
向こうの窓は、憎たらしいほどの晴れ。
目の前のベッドは、息を飲むほどの白。
足がもつれる。
ふらふらとベッドに駆け寄った。
奈津は静かに、そこに横たわっていた。
眠っているかのようなそれは、時が止まった美しさだった。
「な、つ」
声が掠れる。
閉じられた目の縁を彩る、睫毛が綺麗で。
永遠に開けられることのない目に、恋い焦がれた。
触れた手は、ひどく冷たい。
柔らかな頬は、まだ温かかった。
「なつ、なつ、」
何度も名前を呼んだ。
目を開けるまで呼ぼうと思った。
もう一度、優しい声で、俺の名前を呼んで。
ふわりと、花が咲くように笑って。
涙で視界が歪む。
そっと、キスをした。
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