2
side.航
「こ……ぅ、」
はぁ、はぁ、と浅く息を吐きながら、奈津が名前を呼ぶ。
「も、喋らなくていいから……」
「こう、」
優しい声は、耳に届く。
奈津はこんなときでも、ふわりと笑う。
わかっていた。
こんな日がくることはわかっていた。
驚くほど軽くなった身体も。
透けるように白くなった顔も。
そうやって、苦しいくせに。
俺の腕の中では安心したように笑う。
そんな終わりがくることは、わかっていた。
バタバタと医者が入ってきて、何かを喋っている。
俺の腕の中の奈津を引き離す。
嫌だ、と思ったけれど、力が入らなくてその手を離してしまう。
奈津はベッドに乗せられて、けれど俺の方を見ていた。
つ、と涙が頬を伝った。
声にならない声を、小さな口が紡いだ。
気付いたら、廊下にいた。
昼間なのに、病院の廊下はやけに静かだった。
誰一人いない。
廊下の椅子に座って、震える手を押さえる。
カタカタと震えて止まらなかった。
まだ温かい、奈津の体温は手のひらに残っていたはずなのに。
奈津が病室のドアが、静かに開く。
誘われるように、ふらりと部屋に入った。
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