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side.航
この日、奈津は長い退院を終えて帰ってきた。
「やっと着いたー」
病院から寮部屋に戻って、俺は肩から奈津の荷物をどさりと下ろした。
帰ってきたのは奈津の部屋。
随分と家主がいなかったせいか、空気が冷えてるように感じた。
「奈津、疲れてない?」
「だ、いじょぶ」
「荷物片付けよっか」
久しぶりに帰ってきたせいだろうか、奈津はなんだかそわそわしている。
退院したとはいえ病み上がりだ、何かあったら連絡するようにと、ここまで送ってくれた満月先生が言っていた。
荷物を片付けて、さてゆっくりしようかというとき。
「?……奈津?」
奈津はきゅっと、俺の手を握ってきて。
小さく震えていた。
「どした?気分悪い?」
「ちが、あの、あのね……」
くい、と俺の手を引っ張って、
「航の部屋、行きたい……」
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