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side.航
奈津は少しずつ、体力を戻してきた。
もうすぐ退院の日を決めようという話さえ出ているほどに。
「退院したら、何したい?」
「えと、」
最近はこんな話ばっかりしている。
ベッドに座る奈津と、その傍らのパイプ椅子に座る俺。
この距離も、もうすぐ終わりだ。
「保健室、いって、先生のとこ……」
「ん」
「あ、あと猫、」
「ちょっと大きくなってたよ」
奈津は嬉しそうに、はにかむように笑う。
そんな顔が、愛しくて。
嬉しくて。
「奈津がんばったもんな、退院したら、お祝いしよ」
「お祝い、」
「そ。好きなものいっぱい食べたりー」
「ぼ、僕、頑張った……?」
誉められることに慣れてない奈津は、時たまこうやって、不安そうな顔をする。
「ん。頑張ったよ」
「ん……」
だから俺は抱き締めて、頭を撫でて、誉めてやる。
頑張ったねって。
ありがとうって。
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