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航は、毎日病院にきてくれる。
僕には距離がわからないけれど、学校からはそんなに離れていないから、大丈夫だと言う。
本当かどうかは、わからない。
「でな、春川がさぁ……」
航は、保健室で過ごしていたときのように、僕のだいすきな笑顔を向けて話してくれる。
僕も、面白くって笑ってしまう。
なにも変わらない。
ここは、保健室なんじゃないかって思う。
またチャイムがなって、航が教室にいって。
僕は満月先生とお話したりして。
ホームルーム前には、教室まで行って。
航と一緒に、帰る。
そんな当たり前の毎日が、今も続いているような気がして。
「……時間ですよ」
それをぶちやぶるのは、この言葉。
航が、あ……と言葉を詰まらせる。
「ごめんな、また、明日な」
頭を撫でられて、僕はこくりと頷く。
伸ばしそうになる手を、シーツを握って耐える。
溢れそうになる言葉を、唇を噛んで耐える。
航の目は見ない、泣いてしまうから。
「……おやすみ」
「……おやすみ……」
俯いて顔をあげない僕に、航がどんな表情を見せていたのかわからない。
ただ一つ、頭のてっぺんにキスをして、航は、いってしまった。
握りしめた手に、ぱたりと涙が落ちた。
見られなくて、よかった。
僕は重荷になりたくない。
「っ………」
いかないで。
いかないで。
ひとりに、しないで。
ずっと僕のそばにいて。
ぎゅってして、眠って。
僕の手を握って。
普通じゃない、僕の日常。
それが、今はこんなに羨ましい。
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