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「時間ですよ」
この言葉が、僕は一番きらい。
いつも優しい看護士さんだけど、すこぅしだけ、嫌いになる。
わるくなんて、ないのに。
我が儘だって、わかってるのに。
「……明日も、くるから」
航はそう言って、ベッドの横に置いた椅子から立ち上がる。
僕も身体を起こそうとすると、それを制するように、額にキスをされた。
「おやすみ」
「……おや、すみ……」
次は軽く唇に触れるだけのキスをされて、航は病室を出ていった。
足音が小さくなって、次第に消えていく。
しん、とした部屋。
僕は、ひとり。
「……いか、ない、で」
ぽつりと、口から出た。
静かな空気の中に、言葉が溶けていく。
言うことは、航を困らせることだと、わかっていた。
困らせたくはなかった。
僕が、わるい。
僕が、ちゃんと出来ないから。
僕が、普通じゃないから。
「っ……な、で……いかない、で、っ」
届かない言葉を何度も呟く。
届かないってわかってるから、だから、言わせてほしい。
何度も飲み込んだ、それを。
「ひとりに、しないで……っ」
航、
ずっとそばにいたのに。
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