5
 

side.航



奈津の入院先は、学校からそう離れていない、昔入院していたところとは違う病院になった。
過去を思い出さないようにという満月先生の配慮と、信頼できる医者がいることが考慮された。

俺は寮に戻って奈津の荷物をまとめてやり、しばらくして保健室に帰ってきた。
満月先生は何も言わず、保健室から出ていった。



「………」
「………」



上半身を起こしてベッドに座る奈津。
ベッドの隣のパイプ椅子に座る俺。

沈黙の中、奈津の頬に濡れた跡が見えて、あぁ泣かせてしまった、と隠れて拳を握った。



「………ぼ、ぼく」



震えた声だった。



「うれし、かった……教室、いけるの、いくと、話しかけてくれるひと、たくさん、」



つ、と涙がつたう。



「航が、笑って、くれるから、っ」
「っ……」
「やっと、やっと近くっ……ちかく、これた、普通に、出来るようになった、でも、なんでっ……」



普通に教室に来れるようになって。
普通に生徒として過ごせて。

なのに、離れていく。



「ぼく、なにも、できなっ、」



悲痛な叫びに、思わず抱き締めた。



「っふ、ぅ、うっ……」



奈津は俺のシャツにしがみついて、わんわん泣いた。

この小さな身体で。
華奢な背中で。
細い指で。
必死に頑張ってきた、なのに。



「ごめ、早く、俺が気づいてれば」



入院は、免れたかもしれない。
けれど奈津は否定するように首を振って、ぽつりと呟く。



「な、で……っぼく、は、ふつうに、できないの……?」



腕の力を強くすると、背中に浮き出た骨を、手のひらに感じた。



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