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side.航
廊下に出て、背負うか横抱きにしようかと思っていたけれど、そうしようとすると奈津はぶんぶんと首を横にふった。
口元に手をあてて、顔色は、かなり悪い。
「……吐きそう?」
「っ、」
奈津は顔面蒼白のまま、こくこくと頷いた。
無理に身体を抱えて移動すると、それこそ辛いかもしれない。
「歩ける?もうちょい、」
奈津の細い腰に手を添えて、ゆっくりと階段を降りていった。
降りた先には、保健室がある。
「っ、ぁ」
「!」
最後の一段というところで、奈津が軽く躓いてしまった。
そのまま惰性で床に膝をついてしまい、
「ぅ、えっ……」
ぱたぱた、と少量ながら吐いてしまった。
普段からあまり食事をしないからか、すぐに透明の胃液だけになる。
「っぇ、ふ、」
「いいよ、大丈夫、吐いて」
背中を擦ると、奈津はえづいた。
けれど吐き出されるのは少量。
一気に吐くよりも、嘔吐感が続いて少しずつ吐く方がつらいとは、聞いたことがある。
その証拠にか、奈津は生理的な涙を流していた。
奈津の背中を撫でつつ、携帯を取り出して満月先生に電話をした。
ワンコールで切ったそれは、密かに決めていた合図。
もうしばらくしたら、駆け付けてくれるだろう。
「うっ……けほ、っ、ぅ、」
苦しいだろうな、と思う。
風邪をひいても嘔吐まではいかない俺にとって、嘔吐という行為はかなり懐かしいものになっていた。
食事をするだけで、吐く。
少し体調が崩れても、吐く。
昔を思い出しては、吐く。
つらい、だろう。
「っふ、ぅ、うー……っ」
ひとしきり吐いたのか、奈津は泣き声を大きくした。
「大丈夫、大丈夫」
「けほけほっ……っ、ごめ、なさ、」
「いいの。苦しかったね」
ぱたぱたと、階下で満月先生の足音が聞こえた。
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