5
神様は、いない。
僕はそう信じてきた。
誰も助けてくれない。
僕はそう思ってきた。
今だけは思う。
なんて身勝手なんだろうと自嘲するけれど。
しばらく触れていなかった、でこぼこの左腕に触れて。
静かに、目を瞑る。
―――どうか。
「……冷えるよ」
お風呂から上がってきた航が、ベランダに出ていた僕に上着を着せた。
「なにしてたの?」
「……ううん、」
「?」
この前知ったこと。
「流れ星にね、お願い事を、言うとね」
―――願いが、叶うんですよ。
満月先生の優しい声。
どこに、星は隠れているのだろう。
「なにを願うの?」
「………ひみつ」
「えー?」
「航は、なに、お願いする?」
航は、柔らかく笑った。
「願い事なんて、ないよ」
―――もう、叶ってる。
暖かい声が、耳に届いた。
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