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目をさますと、おはよ、と航の顔が笑っていた。
「お、はよ……」
「ゆっくり眠れたみたいだね」
頭を抱えて、抱き締められた。
航の匂いが鼻腔をくすぐって、僕はすう、と息を吸った。
悪夢は、見なかった。
「なんの夢見てた?」
「ゆめ……覚えて、ない」
「なぁんだ」
「?」
「俺の名前、呼んでくれてたから」
記憶にない寝言に、自分で顔が真っ赤になるのがわかった。
嬉しかったよ、と航は笑う。
「っ……」
「……奈津?」
「ごめ、なさい……覚えてなくて」
嫌いになってしまったかな、と顔をあげられずにいると、耳元で声がした。
「じゃあ、今俺の名前、呼んでくれる?」
「……こ、う」
「うん」
「こう、……こう」
「うん」
呼べば、返事をしてくれる人がいて。
それだけでどうして、こんなに涙が出るんだろう。
「……泣かないで」
幸せだな、と思う。
(もしかして、これは、)
ご褒美なのかもしれない。
今まで頑張った、から。
どうか、と願う。
いくらでも頑張るから。
この幸せを奪わないで。
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