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side.航



俺と奈津が出会ってから、随分経った。

偶然だった。
保健室で倒れている奈津を見つけて。
放っておくことができなかった。

背負ってるものの重さにたじろんでも、傍にいたかった。
警戒に満ちた目は、俺に笑いかけてくれるようになった。
震えた手は、すがるように俺に伸ばされた。

こう、と甘い声が耳に残る。



「………」



すぅ、と眠ってしまった奈津の前髪を
、さらりと額から払った。
その穏やかな顔を見ると、まだ悪い夢は訪れていないようで。



(どうか、)



静かに、願う。

この小さなこに、これ以上の苦しみを与えないでと。
そのぶん俺が、背負ってみせるからと。



「………」



きゅ、と握られた手。
そっと、手の甲に唇で触れた。



「……こ、」
「……!」
「……こ……う、」



微かに動いた唇に、自分のを重ねた。

こんなに求められて、すがられて、必要とされて。
離れられるわけなんて、なかった。



「奈津、好きだよ」



呟いた言葉は、静かな部屋に溶けた。



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