3
side.航
俺と奈津が出会ってから、随分経った。
偶然だった。
保健室で倒れている奈津を見つけて。
放っておくことができなかった。
背負ってるものの重さにたじろんでも、傍にいたかった。
警戒に満ちた目は、俺に笑いかけてくれるようになった。
震えた手は、すがるように俺に伸ばされた。
こう、と甘い声が耳に残る。
「………」
すぅ、と眠ってしまった奈津の前髪を
、さらりと額から払った。
その穏やかな顔を見ると、まだ悪い夢は訪れていないようで。
(どうか、)
静かに、願う。
この小さなこに、これ以上の苦しみを与えないでと。
そのぶん俺が、背負ってみせるからと。
「………」
きゅ、と握られた手。
そっと、手の甲に唇で触れた。
「……こ、」
「……!」
「……こ……う、」
微かに動いた唇に、自分のを重ねた。
こんなに求められて、すがられて、必要とされて。
離れられるわけなんて、なかった。
「奈津、好きだよ」
呟いた言葉は、静かな部屋に溶けた。
前へ top 次へ