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side.航
「眠たい?」
奈津は、少し、と長い瞬きをする。
奪われてきた時間を取り戻すように、奈津は長く眠る。
普段は学校に来てから保健室で寝ていたけれど、最近は教室に来ているから。
学校が終わった夕方の今、部屋のなかの停滞した空気は、当然のように眠気を誘う。
「寝てていいよ、ご飯になったら起こすし」
「……や、」
「ちょっとだけなら、ね、大丈夫」
ベッドに抱えあげようとすると、腕を掴まれた。
いやいや、と首を横に振る。
「どう、した……?」
「……ゆめ、みるから……きっと」
何か兆候があるわけじゃない。
はっきりとしたきっかけがあるわけじゃない。
けれど長く奈津に染み付いた恐怖は、そう簡単には拭えていない。
それはもう、きっと悪夢がくると、予見できてしまうくらい慣れてしまっている。
「うん……でも、眠ろう。顔色悪い」
「やだっ……」
「起きたら、俺がいる。怖い夢見ても、俺が忘れさせてあげる」
そんなこと言っても、俺は奈津の恐怖を拭い去る術なんてもっていない。
ただ、こうして震える身体を抱き締めることしかできない。
「……ん……」
「……おやすみ」
少しでも、良い夢でありますように。
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