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side.航
「ここまでー……」
チャイムが鳴って、本日最後の授業が終わる。
先生が教室を出ていって、慌ただしくなった中、俺は真っ直ぐに廊下に繋がるドアに向かった。
「奈津っ」
「……航、」
廊下で待っているのは、奈津の姿。
俺を見たらほっとしたように笑ってくれるのが、ひどく嬉しい。
最近奈津は、教室まで来るようになって。
授業のような長い閉鎖された空間にはまだ居られないようだけれど、授業が終わるのを見計らって、やってくる。
「お前ら早く教室入れー」
廊下の向こうで、皆川先生が言った。
俺たちはふふ、と笑って、ホームルームが始まる教室へと入っていく。
隣同士の机。
誰も見ていない一番後ろの席で、俺たちは手を繋ぐ。
「……こう、」
「ん?」
皆川先生の話をそっちのけに、奈津が耳元で囁いた。
「あの、ね」
「うん」
「……会いたかった」
びっくりして隣を見ると、真っ赤な顔。
俺はただ笑みを作ろうとする顔を抑えて、ぎゅっと、手を強く握った。
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