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あれから僕は、少しずつ教室に行けるようになった。
自習とか、昼休みとかだけだけど。
授業みたいに囲まれた逃げられない場所にいるのは、まだ辛かった。
それでも、前に進んでるって、航や先生が褒めてくれた。
「高梨!パス!」
「よっしゃ!」
今は、体育の時間。
体育館でのバスケ。
体育館なんて、初めてきた。
僕は制服姿のまま、隅っこで座っていた。
「あっ……」
航が、ボールをもって、シュートした。
わぁっと周りで歓声があがる。
チームの人に航がわしゃわしゃと頭を撫でられていた。
いい笑顔、してる。
「奈津ーっ!」
「あ、」
航がふとこっちを見て、ぶんぶん手を振ってくれた。
僕も振ると、駆け寄ってきてくれた。
「見てたっ?俺のシュート!」
「うん、すごいね」
「だろー」
自慢げに話す航は、子どもみたいで。
「高梨ー次始まる!」
「今行くー!」
またね、と一つ頭を撫でて、航は行ってしまった。
航と同じ場所にいられるようになったのは、嬉しかった。
でも、思い知らされる。
僕と航は、違う世界の人なんだって。
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