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「行ってくるな」
「うん、」
僕を保健室に送り届けて、しばらくして航は教室に向かった。
間もなくチャイムが鳴って、遅刻しなかったかなぁ、とどきどきした。
「最近、調子が良さそうですね」
先生がにこりと笑った。
温かいマグカップを両手で包みながら、僕はこくりと頷いた。
「薬、あんまり、飲んでない」
「そうですか……高梨のお陰、でしょうかね」
「……うん」
「もちろん、奈津の頑張りもあるでしょうけど」
穏やかな毎日が、続いていた。
調子が悪そうになっても、航がそばにいてくれるから。
「航が、いてくれるから、」
「……高梨に、恩返ししなきゃですね」
「……うん…」
僕は航に、たくさんしてもらってる。
僕は、何かしてやれてるんだろうか。
傍にいるだけでいい、と航は言ってくれる。
けれど、気を遣ってるんじゃないかなって、いつも思うんだ。
「……僕、何か、してやれるかな……」
「自分ができることを、すればいいですよ」
僕が頑張れることって、何だろう……?
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