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side.航



「……高梨」
「………ごめん」
「俺はいいよ、でも、浅井の前でそんな顔すんなよ?」
「………」



春川には奈津が色んなトラウマを抱えてることは、伝えてない。
けれど保健室登校なのと、普通じゃない人嫌いとで、何か勘づいていると思う。



「じゃ、俺帰るな。……なんかあったら、相談くらいはのるし」



静かに、春川は言った。
春川の持ち前の明るさは、俺を何度も救った。

奈津が悪いわけじゃない。
奈津に恐怖を植え付けた、奈津の父親が一概に悪いわけでもない。
誰も悪くなくて、それが解決してることは、俺も知ってる。

奈津のことが、嫌いになったわけじゃない。
見放したり、突き放したりするつもりもない。

ただ、もどかしくなる。
普通に出来ることが、出来ないことに。
誰も悪くなくて、奈津も闘ってて、それは理解できるのに。
一緒にできたら、一緒に行けたら、と想像が積もりに積もる。



「……はぁ」



私利私欲、だろうか。
でも好きな人と色んな事をしたいと思うのは、普通じゃないだろうか。

奈津を受け入れて、支えて、痛みを共有してあげるほど、俺は大人じゃないってことか。



(………帰ろ)



自分の非力さに嫌気がさす。
けれど変わらないのは、奈津が好きだという気持ち。



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