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違う。

航が怖かったんじゃない。
思い出すことが、怖かった。
思い出して、航との記憶を上塗りされるのが、怖かった。

忘れたいのに、忘れられない。
どんなに航としあわせな記憶を作っても、思い出して、塗り潰されてしまう。
それが、怖かった。



「……奈津」



震える声で、めちゃくちゃだったけど、必死に言葉にした。
航がぽつりと名前を呼んで、僕を抱えあげた。
ベッドにあげられて、横にされる。
でも僕が離さないから、航が少しだけ笑って、隣に寝てくれた。



「……忘れられるまで、一緒にいる」
「……!」
「怖くなったら、今みたいに言って。奈津一人で、抱え込まないで」
「ん、んっ……」



ぱたぱたとシーツに落ちる涙を、航が拭ってくれた。



「ごめ、なさ……」
「謝ることないでしょ、俺、嬉しいんだから」
「え……?」
「奈津がしあわせだったって、言ってくれたこと」



引き寄せられて、抱き込まれた。
航の匂いがして、僕もその背中に手を伸ばした。



「……すき、」
「ん、俺も好きだよ」
「うん……」



いつも、隣にいて、



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