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僕の世界は長い間、あの家だけだった。
僕の他人は長い間、お父さんだけだった。
僕の仕事は長い間、尽くす事だけだった。
言われたままに生きてきた。
言われたことしか知らなかった。
僕の、世界のすべて、
あの家に監禁されていたと知った。
他人はお父さんだけじゃないと知った。
僕たちは間違っていると知った。
僕は色んな事を、知った。
お父さんと離れ離れになった。
でも記憶は離れなかった。
『間違った』事をしてた日々。
頭の中で何度も繰り返された。
もういいでしょう、と。
苦痛の日々から解放してと。
恐怖の世界から解放してと。
何度も何度も思った。
何度も何度も泣いた。
でも、お父さんが憎いわけではなかった。
僕に『間違った』事をしたお父さんは確かに『間違って』いるけれど。
『間違った』事をされなければ、僕は苦しむ事などなかったけれど。
でも、憎んでなんかいない。
怒ってなんかいない。
ただ普通の世界で、普通の人と、普通に過ごしたい。
普通みたいに、普通にお父さんに愛されたい。
ただ、それだけ。
僕が許せば、お父さんは罪悪感から逃れられる。
そうすれば、僕の事なんて、忘れてしまうでしょう?
謝罪なんていらない。
愛してよ、
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