6
side.航
『愛されたかった、』
そう言って、小さな身体を震わせて、奈津は泣いた。
どうしてこんなにも、この親子はすれ違うんだろうと思った。
虐げられても、父親の愛を求める奈津。
虐げて、奈津からの解放を乞う父親。
(なんなんだよ、)
なんて、不器用。
「ただ、普通に。普通に名前を呼んで、普通に生活できれば、それでよかった」
歪んだ、親子。
「許すなんて。許してしまえば、愛してくれる?」
「………」
「許してしまえば、あの人の中から僕はいなくなる」
ただ名前を呼んで。
抱き締めるだけでいい。
歪んだこの親子は、それすらできない。
「奈津、それじゃあ」
「……」
「愛してほしい、って。言えばいいんじゃないの」
「……拒絶、されたら」
「……ばかだなあ」
震える肩に触れて、そっと頬にキスをした。
「拒絶するわけない。だって奈津の『お父さん』だから」
奈津が父親に会うと決めたのは、この日から3日後。
夏休みに入ったばかりの、快晴の日だった。
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