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「……え……?」



動揺する僕を、そっと航が抱き締めてくれた。
そこでやっと、自分が震えているのがわかった。

夜の保健室に僕たちはいた。
珍しいことだったけど、満月先生の仕事が終わるのを待っていたから。
話があると言った満月先生は、いつものような優しい顔をしていた。



「え……先生、なん、て……?」
「………奈津のお父さんが……もう少しで、亡くなってしまうかもしれません」
「お、と……さん……?」



聞きたくない。
ぎゅっと耳を塞いだ。

知らない。
知らない人だ。
僕には関係ない。



「っは、あ……はっ」
「奈津、落ち着け」



航が背中をなでてくれる。
でも、先生の声は、指の隙間から流れだす。



「もう一生、会うことはないです」
「ふ、……はぁっ、は」
「最後に会わなくても、いいですか?」



―――唯一の、親に。



少しだけ覚えてる。
まだ優しい事が多かった頃の、お父さん。

どこで、間違えた?
どこで、道をそらした?



お父さん、
僕と、あなたは、



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