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side.満月



奈津が少しだけ、対人恐怖症を克服した。
嬉しそうに春川くんと話したことを伝えてくれた奈津。
あぁ良かった、と思いながら、今直面している問題に頭を悩ませていた。



「珍しいな、相談なんて」



奈津と高梨が帰ってから、俺は恭平を呼び出した。
神妙な雰囲気を察したのか、真剣な表情をしている。



「俺一人じゃ、決められそうになくて」



2人分のカップを用意して、俺は向かい合わせにソファに座った。



「どうした?」
「奈津を……父親に合わせるか、迷ってる」
「父親に……?」



奈津を虐待し、今も尚苦しめ続ける父親。
恭平はただならぬ話に眉をしかめていた。



「随分と前に、出所はしてて。最近、病気で倒れたらしい。ガンで……もう長くはないって」
「それで親の死に目にあわせようって?浅井を傷付けた親に?」
「俺だって反対だけど、奈津にとっては唯一の肉親だ……勝手に他人の判断で決めていいもんじゃないと思うんだ」



どう思う?と、恭平に問い掛けた。
恭平は一つ溜め息をついて、腕を組んだ。

沈黙しかない保健室の中、カップから出る湯気だけが、揺れていた。



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