2
side.航
バタバタと駆ける音で目を覚ました。
ついで水音と、咳き込む声。
奈津だ。
明かりの点く洗面所に行くと、奈津が突っ伏して吐いていた。
崩れ落ちそうな身体をそっと支えて、背中を撫でてやった。
「っふ、けほ……っ」
青白い肌。
辛そうな表情。
目尻に浮かぶ涙。
俺が身体を支えていることにも反応を示せないほど、必死に吐き続けていた。
起こしてくれればいいのに、と思う。
奈津が気をつかったのか、余裕がなかったのかはわからないけれど。
そばにいるのに。
どうにかしてやりたいと、痛みを共有したいと思うのに。
ひとしきり吐いた奈津の口を濯がせると、疲れたのかふっと意識を失った。
目尻に浮かんでいた涙が流れて、そっと拭ってやった。
ベッドに運んで、寝かせた。
俺はベッドの脇に座って、眠る奈津の頭を撫でた。
苦しそうに眉間に皺をよせている。
ぎゅう、と握り締めている手をとって、俺の手を重ねてやった。
「なんでこんなに……苦しまなきゃいけねえんだろうな……」
涙が出た。
同情なんかじゃない。
哀れみなんかじゃない。
見たこともない奈津の父親への憎しみと。
自分では何もできないやるせなさと。
一人で闘い続ける奈津の強さ。
俺が、いるから。
一人で闘うなよ。
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