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side.航



バタバタと駆ける音で目を覚ました。
ついで水音と、咳き込む声。
奈津だ。

明かりの点く洗面所に行くと、奈津が突っ伏して吐いていた。
崩れ落ちそうな身体をそっと支えて、背中を撫でてやった。



「っふ、けほ……っ」



青白い肌。
辛そうな表情。
目尻に浮かぶ涙。
俺が身体を支えていることにも反応を示せないほど、必死に吐き続けていた。

起こしてくれればいいのに、と思う。
奈津が気をつかったのか、余裕がなかったのかはわからないけれど。
そばにいるのに。
どうにかしてやりたいと、痛みを共有したいと思うのに。

ひとしきり吐いた奈津の口を濯がせると、疲れたのかふっと意識を失った。
目尻に浮かんでいた涙が流れて、そっと拭ってやった。

ベッドに運んで、寝かせた。
俺はベッドの脇に座って、眠る奈津の頭を撫でた。

苦しそうに眉間に皺をよせている。
ぎゅう、と握り締めている手をとって、俺の手を重ねてやった。



「なんでこんなに……苦しまなきゃいけねえんだろうな……」



涙が出た。

同情なんかじゃない。
哀れみなんかじゃない。

見たこともない奈津の父親への憎しみと。
自分では何もできないやるせなさと。
一人で闘い続ける奈津の強さ。



俺が、いるから。
一人で闘うなよ。



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