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帰ってくる。
帰ってくる。
かんかん、と外から乱暴な足音が近付いてくる。
僕は布団を被って、震えて耳を塞ぐ。
足音が、止まる。
がちゃり、ドアが開く。
布団をはがされて、顎を掴まれる。
恐怖で僕は涙も出ない。
ただなされるがまま。
髪の毛を掴んで引きづられて、蹴られて、殴られて。
やめて、なんて言えない。
終わらないことを僕は知ってるから。
意識が失うまで。
多分、失ってからも。
地獄は、続く。
ドアが、突然、開く。
「っ………はあ、はっ」
夢、だった。
しばらくはこんな夢、見ないでよかったのに。
シャツは汗でびっしょりで、速く脈打つ胸元をつかみながら上半身を起こした。
隣に、航が眠っていた。
あれから部屋に泊まらせてもらったんだった。
安らかな顔をして寝ている航は、熟睡しているようで。
「うっ……」
嘔吐感。
夢を見た後はいつもそう。
壁側にいなかったのは幸いだった。
咄嗟にベッドから降りて、洗面所に駆けた。
「っう、ぁ……けほ、っ」
胃液しか流れない。
「けほ、っ……」
胃液と、涙が、混じった。
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