6
ひとしきり傷を舐めて、次は顔さえも、舐めてきた。
「ちょ、くすぐったいよ」
耳を撫でると気持ちいいのか、すりすりと肩に頬をすりよせてきた。
「そうだ、飯……冷めたな、温めるし、待ってろ」
ベッドに少年をおろして、立ち去ろうとしたけれど、
「にゃっ、にゃあっ」
ばたばたと、音がした。
少年が這うようにして、けれど痛むのか足は引きずって、俺の足元へとやってきた。
「え、どうした」
足元でにゃあにゃあ鳴くので屈むと、首に腕を巻き付けて、ぎゅうっと抱き締められた。
「にゃー……っ」
少年は、泣いているようだった。
この少年が、誰なのかわからない。
人間なのか、猫なのかもわからない。
どこからきたのか、今いくつで、どうやって生きてきたのかも、わからない。
言葉さえも、わからない、それでも。
「……一人にしないよ」
置いていかないで、と。
一人にしないで、という思いだけは、はっきりと伝わって。
「にゃ、にゃ……」
すり、とすりよせる。
その体温が、心地いい。
この弱い生き物を、守りたいと、思った。
こうして俺は、捨てられたねこを、飼い始めた。
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